2月29日にエルピーダメモリの債権者集会が開催された。製造業で過去最大規模の負債額となる倒産事例だけに、多くの取引先・債権者が集まった。しかし内容的には更生法申請の夜27日に、メディアを集めて行った記者会見とは様相がまったく異なるものとなった。27日の記者会見では、経営責任を追及する質問や、再建の可能性や必要性を疑問視する質問も多くみられ、それを受けて坂本社長もやや感情的になる場面もみられるなど緊迫した内容だったが、29日の債権者集会は個別の債権の処理など事務的な質問にほぼ終始した。
実際には債権者集会に出席していた取引先こそ利害関係がある当事者なのだが、経営責任を追及する声は少なくとも席上ではほぼ皆無で、事務処理の確認や更生法のスケジュール説明などが淡々と行われるという時間が大半を占めた。
また実務面の質問が多かったためか、あるいは記者会見で感情的な押し問答となったことを踏まえて会社サイドが配慮したのか、債権者への質問についてはすべて弁護士が回答した。27日の記者会見ではほぼすべての質問に坂本社長が回答したが、29日の債権者集会では一転してほぼすべての質問に申立代理人の小林弁護士が回答、坂本社長は冒頭に「更生申立に至る原因」について用意された原稿を棒読みしたほかは、会議の最後に「申し訳ありませんでした」と頭を下げただけだった。
債権者集会は、29日の午後に「NEW PIER HALL」(東京都港区海岸1−11−1 ニューピア竹芝ノースタワー1F)で2部制で開催された。1部は午後1時から2時半まで、2部は3時から4時半まで開かれ、1部では定数800人の席がほぼ満席に近い形で埋まった。1社2人までという制限での入場だったので、およそ債権者は1部だけで少なくとも300社以上は集まったとみられる。一方会社側も坂本幸雄社長、秋田エルピーダメモリ五味秀樹社長など4人、弁護団は申立代理人小林信明弁護士(TEL03−3238−8111)、監督委員兼調査委員の土岐敦司弁護士(TEL03−5405−4080)など計10人が出席、総勢14人がひな壇に並ぶという構成となった。
会議は冒頭、前述のように坂本社長が席上全員に配布された「更生申立に至る原因」を書面通りそのまま読み、その後弁護士サイドから改めて更生法スケジュールや更生法についての説明があった。説明は一般的なもので、通常は法的申請からおよそ3週間で手続き開始決定が下りて管財人が決定、この開始決定から18週間後に更生計画案を提出するという通例が示された。なおエルピーダメモリの場合はDIP型の更生計画のため、現経営陣がそのまま経営の指揮を執り、管財人には坂本社長が、管財人代理には五味秀樹秋田エルピーダメモリ社長と木下嘉孝エルピーダメモリ取締役が就任する予定となっている。
また債権の取り扱いについても説明があり、更生法申請前日の26日までに商品が着荷(倉庫あるいは工場に)したものは保全対象で棚上げ債権となり、27日以降に着荷するものは共益債権として「随時支払われる」とした。なおこの「随時」とは実際には月末締め切り翌月末払いで、さらに「従前の取引条件で取引を継続する場合」という条件がついている。また棚上げ債権のうちでも既報のように、債権額が100万円以下のものは棚上げの対象外となっており、随時支払われることになっている。
質問の多くはこの支払い条件の解釈などに集中した。まとめると、「従前の取引条件」とは支払い条件のことではなく、検収や納入の条件などで、こうしたなかで継続される27日以降の支払いはすべて「月末締め翌月末払い」となることが説明された。また26日以前に受注して27日以降に納品するものは共益債権とみなされる。
ほかにも「役務の提供はどういう判断になる?」とか「倉庫に在庫してある材料に応じてエルピーダが使用して支払いをするビジネスモデルだがどういう基準になる?」とか「通信費の支払いは?」など個別ケースの質問が多く、これらの多くに弁護士は「どういう契約になっているかで個別に判断する」という回答にとどめた。全体に負債4,480億円の債権者集会にも関わらず、細かな支払い判断を求めるケースが多かった。ただ某質問者は、支払いに関する問い合わせを担当者にしたところ「債権者集会で直接聞いてくれ」と言われたとしており、会社サイドでも対応が混乱していた側面もある。
こうしたなかで、何らかの普遍性があると思われる質問についてのみ、以下に掲げる。
◇債権者会議で出た主なQ&A
Q |
台湾の子会社レックスチップ(瑞晶電子)については法的申請はあるのか? また国内のテラプローブとテラパワーはどうなる? |
A |
説明する立場にはないが、レックスチップについてなんらかの申請があるとは聞いていないし、テラプローブなども法的申請するという話も出ていない。 |
Q |
100万円以下の少額債権は随時行われるという話だが、まさに今日29日は月末で支払い日だが、支払いが行われていない。なぜだ? いつ払っていただけるのか? |
A |
少額債券は随時払うが、1社ごとで100万円未満という特定をする作業に時間がかかっている。1社で複数の事業所がある場合もある。各社ごとの支払いがいつになるかはこの場では特定できない。 |
Q |
再建の見込みがない場合、スポンサーが見つからなかった場合でも27日以降の共益債権扱いのものは支払ってくれるのか? |
A |
共益債権はスポンサーが見つかる、見つからないに関わらず支払う。再建の見込みがない場合、それは破産に移行するということになるが、その場合でも支払う |
Q |
今朝の日経新聞において(注、29日付)、6週間で計画案を出すという記事があったが本当か? 大型更生事件として、金融債権、大口債権、少額債権、これらを一律に扱うという可能性はあるのか? |
A |
日経の記事は読んでいないので知らない。先刻述べたスケジュールは一般的なもの(注、開始決定から18週後に計画案提出というもの)。なるべく早く手続きをしたいというのは事実だが、更生計画の内容というのはまだまだ先の話で、今の段階では言えることはない。また一般論だが、担保権を持つところと一般債権者は異なる。 |
Q |
スポンサー候補についての情報開示が不足している気がするが? |
A |
既に複数のスポンサー候補から話が来ている。また更生法申請前から提携先の交渉を進めていたのも事実。世界の市場シェア、優位性を考えると複数のスポンサーから名乗りがあるのは当然と考える。なるべく早く交渉をまとめたいが、進捗は相手先との関係で守秘義務がある |
Q |
少額債権の扱いについてだが、100万円を超える債権を持っていても、超える部分を権利放棄すれば少額債権扱いにしてくれるか? |
A |
法律上、放棄弁済という考え方はある。そのやり方を採用するかどうかは決めていないが、要望が多ければ考える。 |
ちなみに質問はおよそ20人の債権者によってなされたが、上記以外はほぼ個別の案件で、その回答も「個別の契約条件を見ないと一概には言えない」という類のものが主だった。また前述のように回答はすべて申立代理人の小林弁護士が行った。子会社に関することなど、坂本社長が弁護士に耳打ちする場面もあったが、坂本社長は記者会見のときとは異なり、自らマイクを取ろうとは一度もしなかった。
会議は混乱することも、紛糾することもなく、また経営陣および弁護団は今後の方向性について問い質されることもなく、およそ1時間半で終了した。
|